本能
重たい桶を持って 毎日水を汲みに行く 坂を下りながら 果てしなく続く空を見上げ 吹き上げる風が 汗を乾かすように通り過ぎる そこには喜びとか幸せとか そんなものは 意識に上がってくることはなく ただ自分の喉の渇きを潤す為に そこには切なさとか悲しみとか そんなものは 意識に上がってくることはなく ただ喉が渇いている人が そばにいるから 水を飲み 顔を洗い 自分の渇きを満たし 誰かの渇きを満たす その恍惚にも似た かすかな発熱のような感覚 その感覚が 明日の力となる 本能に突き動かされながら 前進して 時を刻む 深く刻んだはずの 刻印さえも 風にさらされて いつのまにか消えてなくなる それでもまた 今日も水を汲みに行く かすかな発熱の為に